体温管理

術中体温管理の盲点 「低体温って何度から⁈」

術中の体温管理は、様々な手術合併症予防する重要な看護技術。

手術室看護師、特に外回り看護師の腕の見せ所でもあると思います。

 

僕は手術看護技術の中でも体温管理が大好きで、先日、体温管理に関する基礎的な記事を書きました。

手術中は、なぜ体温が下がるのか

 

今回は、僕がずっとここの中に秘めている、体温管理に関する疑問について。

 

術中の体温管理で問題となるのは、主に低体温ですよね。

 

最近ではmicroclimateといった高体温も少しずつ問題となってきてはいますが、

術中は体温が下がる要素がとても多いので、遭遇する可能性が高いのはやはり低体温。

 

とにかく低体温を防ぐために体温管理をしているんですけど、あることを疑問に思ったことはないでしょうか。

 

「低体温って、何度から⁈」

 

実は、術中管理における明確な低体温の定義って、ありそうでないんです。

 

低体温を防ぐために体温管理してるのに、低体温の定義って何度ですかって言われても、明確な答えがないんです。

 

今回は、

  • 術中の低体温には明確な定義がない
  • どのくらいの核心温を低体温とすべきか

について考えてみようと思います。

一般的な低体温

医療現場において一般的に低体温と言うと、核心温が35℃以下に低下した状態を指します。

 

その中でも、麻酔や手術といった意図的ではない理由で起こった低体温を、偶発性低体温症と呼びます。

 

また、低体温はその程度によって、以下のように分類されます。

  • 軽度低体温:35〜32℃
  • 中等度低体温:32〜28℃
  • 高度低体温:28℃以下

医療全体で考えると、一般的には35℃以下が低体温なんです。

術中体温管理における低体温とは

低体温は、意図的なものとそうでないものとに分けられることを説明しましたが、

 

意図的な低体温であろうと意図しない低体温であろうと、低体温の定義は35℃以下なんですね。

 

それでは、麻酔に伴って体温調節のための反応が抑制された患者に起こる低体温の場合、この定義は当てはまるでしょうか。

 

もし、担当した患者さんの核心温が35.2℃になり、そのまま手術が終わってしまった場合、

 

「35℃以上だから、低体温ではない」というアセスメントをしますか?

 

おそらく、ほとんどの方は、35℃台でも低体温であるとアセスメントしますよね。

 

だけど、これってなぜでしょうか。

 

一般的な低体温の定義ば35℃以下なのに、なぜ手術室看護師は核心温が35℃台でも低体温であるという印象を持つのでしょうか。

35℃台が低体温となる理由

35℃台の核心温が低体温であるとアセスメントされるのには、いくつか要因が考えられます。

 

僕個人としては、

  • 核心温の正常値は37℃前後
  • シバリングが起こりやすい

この2つが要因ではないかと考えています。

核心温の正常値は37℃

手術室看護師が観察する体温は核心温であり、体表温よりも高いんですよね。

 

それに、日常的に計測する腋窩温はきちんと計測すれば核心温に近い温度となりますが、多くの場合は正しい計測方法計測しないので、核心温よりも低い温度となります。

 

核心温の定義に関しては、

  • 36.5℃程度
  • 37℃程度
  • 37±0.5℃

というように様々ではありますが、37℃前後を指す場合がほとんど。

 

看護師は基本的に正常からの逸脱を観察するので、37℃前後という核心温の正常値から大きく逸脱する35℃台の体温には、違和感を感じるのだと思います。

シバリングが起こりやすい

核心温が正常より低く、たとえその核心温が35℃台であったとしても、必ず何かの合併症が起こるというわけではありません。

 

とは言え、ヒトの自律神経系の機能から考えると、35℃台というのは、熱産生のための震え、つまりシバリングが起こってもおかしくない体温です。

 

麻酔中は自律神経系の機能が抑制されているためシバリングは起こりませんが、

 

核心温が35℃台のまま麻酔を覚醒させると、やはりシバリングが起こる可能性は高いわけです。

 

体温管理の目的は主に低体温に伴う合併症を予防すること。

 

35℃台は一般的な低体温の定義に当てはまらないとしても、周術期においてはシバリングを誘発する可能性があるため、手術室看護師にとっては低体温だという印象があります。

ガイドラインにおける低体温

ここまで、

  • 一般的な低体温とは何か
  • 術中体温管理における低体温とは何か
  • 35℃台を低体温とする理由

に関して説明してきました。

 

ここからは、周術期関連のガイドラインにおいて術中体温がどのように定義されているのかを紹介したいと思います。

ガイドラインにおける低体温

日本手術看護学会

「積極的に加温する」

日本手術看護学会の「手術看護業務手順」では、術中の低体温に関する定義はされておらず、

 

術中を通した積極的な加温の推奨にとどまっています。

 

日本手術医学会

「手術台や患者への掛け物を温める」

日本手術医学会においても明確な低体温の定義はされておらず、加温や保温の推奨のみとなっています。

米国CDC

「正常温を維持する」

CDC(アメリカ疾病対策センター)の手術部位感染予防のためのガイドラインでは、

 

SSI予防にあたっては正常温を維持することが推奨されていますが、明確な核心温には言及していません。

AORN

「35℃または36℃未満」

AORN(米国周術期看護協会)では、曖昧ながらも周術期の低体温に関して、

 

35℃あるいは36℃未満を低体温と定義しています。

NICE

「36℃未満」

NICE(英国国立医療技術評価機構)では、周術期の体温管理に関して唯一、明確に36℃未満を低体温と定義しています。

明確な定義がない理由

周術期関連のガイドラインにおける低体温の定義を紹介しましたが、何とも非常に曖昧ですよね。

 

とりわけ、国内のガイドラインにおいては、術中体温管理における明確な低体温の定義がありません。

 

実は、これには理由があるんです。

 

これまで、術中の低体温が生体に与える影響を明らかにするための研究はたくさん行われてきました。

 

そのおかげで、低体温によって、

  • SSIの増加
  • シバリングの発生
  • 麻酔覚醒遅延

といった様々な周術期合併症との関連性が分かってきたわけです。

 

ところが、どのような研究においても、

 

明確に核心温が何度になると合併症が起こるのか

 

という根拠までは明らかになっていないんです。

 

唯一分かっているのは、正常な核心温から大きく逸脱するほど合併症が起こりやすくなる可能性があるということだけなんです。

目標とすべき核心温

ここまで長々と、

術中体温管理における低体温とは何度からなのか

という点について、私見やガイドラインの内容を述べてきました。

 

今のところ、術中体温管理における明確な低体温の定義はありません。

 

術中体温管理は核心温という数値が視覚的に評価できる反面、実は低体温に関する明確な定義はなく、体温管理の目標はとても曖昧なんですね。

 

「◯◯℃以上で体温管理しよう」というような考え方は今のところ難しいので、

 

AORNやNICEの定義による36℃未満の核心温に注意しながら、とにかく核心温の正常値である37℃前後を保ち続けることが重要であると思います。

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