体温管理

術中体温管理に「プレウォーミング」は必要か

プレウォーミング」という言葉をご存じでしょうか。

国内では明確な定義がありませんが、「麻酔導入前加温」と訳されることが多いかと思います。

一般的には、麻酔導入前から何らかの方法で加温を開始することを指します。

僕個人として、

プレウォーミングは再分布性低体温を最小限にするために必須である

と考えており、全ての全身麻酔手術で行うべきであると思っています。

今回は、術中体温管理における、

  • プレウォーミングの目的
  • プレウォーミングの方法

について、紹介したいと思います。

術中体温管理のポイント

手術を受ける患者さんは、手術に応じた何らかの麻酔が必要となります。

麻酔薬は基本的に血管拡張を起こすので、血液そのものが持つ温度(核心温)が末梢組織へと逃げやすくなり、体温低下をきたします。

特に全身麻酔では体温中枢である視床下部の機能そのものが抑制されるため、より体温が下がりやすくなります。

全身麻酔中の体温が下がりやすいと言っても、実際のところ、どのように下がっていくのか。

実は、麻酔中の患者の体温は、ある一定のプロセスを辿って低下していきます。

全身麻酔中の核心温の下がり方

  1. 麻酔導入開始~1時間後
    Phase1:再分布性低体温(-1.6℃)
  2. 麻酔開始1時間後~2時間後
    Phase2:リニアー相(-1.1℃)
  3. 麻酔開始2時間以降
    Phase3:プラトー相

これはあくまで加温や保温といった体温管理を、何もしなかった場合に起こるものです。

麻酔開始後2時間までは核心温が下がり続け、2時間後以降になって初めて下げ止まります。

注目すべきは、麻酔導入開始直後の1時間。

この1時間で、核心温は1.6℃も低下します。

「下がってしまったなら、加温して体温を上げればいい」

と思うかもしれませんが、実は下がった体温を上げることって、簡単なことではないんですね。

我々が観察しているのは核心温ですが、加温できるのは体の外側にある皮膚なんです。

皮膚を介して核心温を上げる場合、実は5倍以上の熱量を加えなければならないのです。

皮膚温と核心温

皮膚温を1℃上昇させても、核心温は0.2℃しか上昇しない。

これらを総合的に考えると、大事なのは下がってしまった核心温をいかに上げるかではなく、

いかに核心温が下がらないように管理するか

という視点であることが分かります。

ポイント

術中体温管理のポイントは、「麻酔導入前の核心温をいかに下げないか」である。

麻酔導入による核心温の低下を最小限にするためには、核心温が最も大きく下がるPhase1での体温低下を最小限に留める必要があります。

プレウォーミングの目的

麻酔導入開始とともに起こるPhase1の体温低下は、核心温が最も大きく低下するタイミングです。

このPhase1、再分布性低体温による体温低下を最小限に留めることこそ、プレウォーミングの目的です。

プレウォーミングの概念

熱というのは、原則として高いほうから低いほうへと移動します。

つまり、麻酔中の体温は、必ず中枢から末梢の1方向に移動します。

高いほうから低い方へと移動するということは、双方が同じ温度なら熱の移動は起こらないということです。

麻酔導入時に起こる再分布性低体温の原因は、

中枢からの温かい血液が、体表の冷たい末梢組織に隣接する血管を通る過程で冷やされてしまうことです。

ということは、末梢組織の温度がある程度高ければ、中枢から末梢へと逃げていく熱の量も減るということ。

プレウォーミングの基本的な概念は、麻酔導入開始前から体表を温めることで、

麻酔導入開始とともに起こる中枢から末梢への熱の移動を最小限に留めるというものです。

ポイント

プレウォーミングとは、麻酔導入前から加温を行うことで体表の温度を上げ、麻酔導入開始直後から起こる中枢から末梢への熱移動を低減することである。

プレウォーミングは必須である

一度下がってしまった核心温は、再び上昇させることが難しい。

体表の加温で核心温を上昇させるためには、目的とする核心温の5倍以上の加温が必要。

そのため、核心温を上昇させることではなく、もともとの核心温をいかに下げずに維持するかとい視点が重要。

僕はこのような考えで体温管理を行なっているので、核心温が最も大きく低下する再分布性低体温を最小限にすることが1つの目標でもあります。

再分布性低体温を最小限にするという目標を達成するにあたり、プレウォーミングは効果的かつ唯一の方法であり、体温管理において必須であると思います、

プレウォーミングの実際

プレウォーミングは麻酔導入前加温と訳される場合が多いので、どうしても「加温」というイメージが強くなります。

プレウォーミングの概念を考えると、重要なのは麻酔導入前の体表温、つまり皮膚温を上げること。

皮膚温を上げるには、皮膚温を下げないことも重要です。

そのため、僕は「保温と加温」という2つの方法で麻酔導入前の皮膚温にアプローチしています。

麻酔導入前の保温

麻酔導入前の患者さんは、不安や緊張がとても強い状態。

不安や緊張による自律神経反応により、末梢血管は収縮します。

これだけでも十分、皮膚温が低下するのですが、これに加えて考えなければならないのは、手術室入室までの過程。

施設によっては、薄い手術着を着て患者さんを入室させる場合がありますよね。

皮膚の露出が多い衣服は、手術室入室までの過程で皮膚温を大きく下げてしまいます。

上着を着てもらう、靴下を履いてもらうなど、皮膚の露出を少なくしなければなりません。

少なくとも、患者さんが寒さを感じない程度の衣服を選択する必要があります。

また、手術室は他の区域と比較して低温環境である場合が多くなります。

低温環境では、確実に皮膚温が低下します。

せめて麻酔導入が完了するまでは手術室の室温を高く保っておくとか、低温環境であっても対流によって皮膚温が低下しないよう温かい掛け物をするなどの工夫が必要です。

患者さんが横になる手術台を温めておくことも、伝導による皮膚温低下を軽減する有効な方法です。

ポイント

麻酔導入前の保温は、

  • 入室時の患者の衣服
  • 手術室の室温
  • 患者の掛け物
  • ベッドの加温

などに留意する。

麻酔導入前の加温

麻酔導入前の皮膚温を上げるために、まずは皮膚温を下げない方法を説明してきました。

いくら皮膚温を下げない工夫をしたからと言って、ヒトの核心温と体表温との間には、ある一定の較差があります。

この較差は自律神経によって支配されているので、意図的に皮膚温を上げない限り、この較差が埋まることはありません。

保温はあくまで皮膚温を下げないための努力であり、プレウォーミングの概念において本当に必要なのは、これから説明する加温です。

加温とは熱を加えること。

最も効果的なのは、対流で加温を行う温風式加温装置を用いることです。

僕は患者さんに加温の必要性を説明し、患者さんが嫌がらない限りは、温風式加温装置による加温を入室直後から行なっています。

加温時間と加温範囲が長いほど与えられる熱量は多くなるので、患者さんが入室したら可能な限り早い段階で加温を行い、使用する加温ブランケットはできるだけ広範囲を覆えるものを選択します。

プレウォーミングの観点から考えると、最近多用されているアンダーブランケットはとても効果的です。

患者入室前からアンダーブランケットを温めておくと、ベッドも温まります。

また、アンダーブランケットの上に掛け物をして温めると、掛け物も温まります。

患者さんが横になる前に一度スイッチをオフにし、横になったら再びスイッチを入れる。

こうすれば、保温と加温をアンダーブランケットのみで行うことができ、とても効率の良いプレウォーミングを行うことができます。

ポイント

麻酔導入前加温には基本的に温風式加温装置を用い、

  • 加温ブランケットは広範囲を覆うものを選択
  • 入室したら早い段階で加温を開始する

これにより、より多くの熱量を皮膚に与えることができる。

まとめ

「核心温を維持するために体表温にアプローチする」という手術室看護師の術中体温管理は、何より核心温が下げないような管理を心がけることがポイントとなります。

核心温を下げない体温管理を行うにあたっては、プレウォーミングは最も効果的な方法であり、必須であると僕は思っています。

具体的な方法としては、

  • 麻酔導入前の保温
  • 麻酔導入前の加温

を行うことにより、Phase1:再分布性低体温による体温低下が少なくなり、その後体温管理がとても楽になります。

 

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