体温管理

術中体温管理を10倍面白くする、体温低下に関する基礎知識

術中の体温管理にやりがいを感じたことはあるだろうか。

 

術中体温管理は、病棟看護師にはできない手術室看護師特有の看護技術なので、僕個人としてはとても大切にしている技術でもある。

 

体温管理と言うと、

  • 露出を最小限にする
  • 掛け物をして患者を保温する
  • 温風式加温装置で患者を温める

このように曖昧で業務的なものだと思われがち。

 

どれも間違っていないけど、問題がある。

 

 

こんな体温管理、全く楽しくない。

 

 

患者の合併症を防ぐ効果的な体温管理には、明確な戦略が必要である。

 

この戦略を考える上でもっとも大事なのが、今日お伝えしようと思っている、「体温低下に関する基礎知識」である。

 

この記事を読んで頂くことで、麻酔によって体温が下がっていくプロセスが明確になるはず。

 

さらに、体温が下がるプロセスを理解できれば、体温低下を防ぐために何をすればよいかが明確になるので、毎日の体温管理が10倍楽しくなるはず。

体温低下に関する勘違い

 

手術室で体温低下と言うと、あたかも患者の体温が手術室の寒冷環境によって冷やされ、熱が奪われていくかのように感じてしまう。

 

ヒトは恒温動物なので、本来は外部の環境温が下がったからと言って、核心温はそう簡単に下がるものではない。

 

ところが麻酔中は自律神経機能が抑制されるため、熱産生のための反応と熱喪失を防ぐための反応がほとんど起こらない。

 

これにより、麻酔中は非麻酔時と比べ、明らかに体温低下が起こりやすくなる。

 

ただ、いくら麻酔中だからと言っても、核心温が直接的に外部環境へと逃げるという単純な構造で体温低下が起こるわけではない。

 

麻酔中の体温低下は、熱力学の法則に従い、

  1. 中枢から末梢への熱の再分布
  2. 末梢から外部への熱移動
  3. 熱の喪失

というプロセスを辿ることを理解しておかなければならない。

体温低下のプロセス

手術室看護師が術中を通して観察する核心温は、

中枢→末梢→外部環境

という順で、熱力学の法則に従って移動する。

熱力学の法則

外部から仕事をしない自然な状態では、熱は高温の物体から低温の物体へと移動する

熱力学や熱工学の専門家から言わせればツッコミどころは満載だろうと思われるが、そんなことはどうでもいい。

 

手術室における患者の体温と環境温との関係性は、ウォームショックなど特殊な状況を除けば、

核心温>末梢温>環境温

であり、原則として、

核心温→末梢温→環境温

の順に熱が移動するというのが、体温低下のプロセスである。

 

このプロセスを、体温低下が始まる麻酔導入開始からの時間経過に合わせて、もう少し詳しく説明していこうと思う。

麻酔導入開始〜1時間後

全身麻酔の導入に用いられる麻酔薬は、ケタラール®︎を除いて、交感神経遮断による血管拡張を引き起こす。

 

血管拡張によって、血管そのものと周囲の組織との接触面積が増す。

 

これにより、血液そのものの温度が、周囲の組織へと移動しやすくなる。

 

ヒトの体温は、核心温>末梢温であることに加え、熱は高い方から低い方へと移動するので、

 

麻酔薬によって血管拡張が引き起こされれば、核心温である血液の温度(厳密には肺動脈温)は、自然と血管周囲の末梢組織へと移動する

 

この中枢から末梢への熱移動を再分布と呼び、再分布によって観察される核心温の低下を、再分布性低体温と呼ぶ。

 

血管拡張による熱の再分布は、麻酔導入開始から1時間後までに完了すると言われている。

再分布性低体温の注意点

麻酔導入開始とともに始まる熱の再分布は、加温や保温を何もしなければ、核心温を1.6℃低下させ、核心温を低下させる最も大きな要因である。

 

ただ、注意しなければならないことがある。

 

熱の再分布による核心温の低下は、あくまで中枢から末梢へと熱が移動しただけであり、熱の喪失は起こっておらず、体の中の熱の総量としては変化していないのである。

再分布性低体温を防ぐには

「熱は高い方から低い方へと移動する」という原理を考えれば、理論上、再分布性低体温を防ぐことは可能である。

 

中枢から末梢へと熱が移動するのだから、麻酔導入が始まる前までに、末梢温(体表温・皮膚温)を中枢温と同じレベルまで加温しておけばよい。

 

ところが、理論上は可能なのだが、現実的には不可能である。

 

末梢の加温は中枢温にも影響するため、少なからず末梢と中枢との温度の較差が生まれてしまうからだ。

 

とは言え、予め末梢温を加温しておけば、中枢からの熱の移動を少なくすることは可能である。

 

つまり、麻酔導入前の患者加温は、再分布性低体温による体温低下を少なくすることができるのである。

 

この考え方がプレウォーミング(麻酔導入前加温)であり、プレウォーミングこそ、麻酔中に起こる最も大きな体温低下を最小限に留める方法なのである。

麻酔導入1時間後〜2時間後

 

中枢から末梢への熱の再分布が完了すると、体温低下は次のフェーズに移る。

 

熱の再分布が完了しているということは、核心温が下がり、下がった体温が末梢に移動しているということである。

 

これまで起こっていたのは熱の再分布であり、あくまで熱が移動しただけで、体内の熱の総量としては変化していない。

 

ところが、ここからは末梢から外部環境へと、熱の喪失が始まる。

 

麻酔中の患者は例え核心温が低下しても熱産生反応が起こらないため、加温や保温をしなければ、熱を喪失し続けることになる。

 

再分布性低体温が完了し、熱の産生量よりも喪失量が多くなるこの時期を、リニアー相と呼び、約1時間続くと言われている。

リニアー相の注意点

患者がリニアー相にある時、多くの手術では、体位固定や手術開始を迎える頃と重なる。

 

そのため、リニアー相では末梢から外部環境への熱の移動が起こるにも関わらず、体位固定などの操作によって、患者の皮膚の露出が極端に多くなってしまうのである。

 

また、手術前の消毒操作により、加温ができないことが多い。

リニアー相での体温低下を防ぐには

リニアー相における体温低下を防ぐ方法は、基本的に保温である。

 

末梢から外部環境への熱の移動経路には伝導・対流・蒸散が挙げられるが、リニアー相の頃は主に対流がメインとなるからである。

 

多くの手術室では、室内の清浄度を保つために垂直層流方式で一方向の気流を維持している。

 

天井から手術台へと向かう垂直層流は患者の皮膚との間で対流を生み、皮膚から外部環境への熱の移動を促進させる。

 

バスタオルなどを用いて皮膚の露出を最小限にすることで、熱の移動の原因と成る対流を遮ることができる。

 

かけるだけであったかいブランケットやサンステートといった発熱素材を用いた掛け物を使えば、より効果的にリニアー相における低温低下を予防できる。

麻酔導入2時間後以降

 

リニアー相を過ぎると、体温低下はプラトー相というフェーズに移る。

 

このプラトー相は麻酔導入開始から2時間後以降を指す。

 

プラトー相では末梢から外部環境への熱の移動が平衡状態となり、熱の移動が起こらなくなる

 

例え麻酔によって自律神経機能が抑制されていても、麻酔開始から2時間経過すれば、体温低下は自然と下げ止まる。

 

ところが、加温や保温を何もせずにプラトー相に至った場合、もともと37℃あるはずの核心温は、35℃を切るくらいまで下がってしまう。

体温低下のプロセスを知ることの重要性

体温低下のプロセスを知ることで、「今、患者の体温はどこからどこへ移動しているのか」という視点を持つことができる。

 

ここまで説明してきたように、手術室看護師が観察する核心温は、

核心温→末梢温→外部環境

の順に移動する。

より分かりやすく言い換えると、

血液→皮膚→外部環境

という順で体温が移動していくということ。

 

体温低下の始まりは麻酔導入に伴う血管拡張なので、麻酔導入開始からの経過時間を合わせて考えることで、

 

「中枢から末梢への再分布が起こる前に、末梢温を上げるための加温を始めよう」

「(麻酔導入後、)患者の手を触ったら入室時より温かくなっていたので、再分布した熱を喪失させないために保温を始めよう」

 

というような、状況に合わせた具体的な行動が見え、体温管理は今よりずっと楽しくなるはずだ。

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