手術看護

手術室看護師が知っておくべきPONVの基礎知識

PONV(Post Operative Nausea and Vomiting)とは術後の悪心・嘔吐であり、術後患者全体の30%に起こる手術合併症の1つです。

 

実は先日、PONVで苦い思いをしました。

僕は術前に必ずPONVのリスクアセスメントをするのですが、PONVのハイリスクであるにも関わらず、PONVを誘発する吸入麻酔薬を使われてしまったんですね。

 

ASA-PSⅠの若い患者さんで、「別に静脈麻酔でいいのにな...」って思ってたんですけど、おそらく麻酔科の先生なりのお考えがあるのだろうと黙っておくことに。

 

案の定、麻酔直後から嘔吐してしまって、僕自身、苦い思いをしました。

 

術後、麻酔科医になぜ吸入麻酔を使ったのか聞いてみると、「そういう気分だったから。」みたいなことを言われて、さらに苦い思いをしてしまいました。

 

PONVは一度起これば患者さんにとって痛みと同じくらい辛くて不快なもの。

 

さらに厄介なのは術後鎮痛との兼ね合い。特に術後にオピオイドを持続静注するような手術。

 

痛みを緩和するためにはオピオイドを静注したいけど、オピオイドを入れればPONVが起こってしまうという、最悪な状況に陥ります。

 

今回の記事では、僕のような苦い思いをしないために、何より患者さんにとって最良のPONV予防が施されるよう働きかけるために、手術室看護師が知っておくべきPONVの基礎知識を紹介しようと思います。

 

PONVの原因

PONVの原因に関して、「周術期管理チームテキスト第3版」では、以下のように説明されています。

悪心・嘔吐のメカニズムとしては延髄外側網様体背側にある嘔吐中枢(VC:vimiting center)が刺激を受けて引き起こされると考えられている。

引用:周術期管理チームテキスト第3版(p.723)

 

このVCに刺激が伝わる経路としては、

 

  • 化学受容器引き金帯(CTZ)を直接刺激してVCへ伝達される経路
  • セロトニン分泌などによって上行性のCTZを刺激しVCへ伝達される経路
  • 感情や感覚的な因子によって誘発される情動刺激によってVCへ伝達される経路

 

などがあると考えられています。

 

また、CTZやVCには、セロトニン・ヒスタミン・ドパミン・アセチルコリン・オピオイドなど様々な内因性神経伝達物質の受容体が存在することが知られています。

 

PONVのリスクアセスメント

PONVは特に全身麻酔でよくみられる合併症であり、脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔といった区域麻酔では頻度が低くなります。

 

その他にも、PONVにはいくつかリスク因子が存在します。

 

これらのリスク因子をもとに、PONVの発症リスクをスコアリングする「Apfelスコア」というものがあります。

 

このスコアを用いることで、PONVの発症リスクを客観的に評価することができます。

Apfelスコア

  1. 女性
  2. 非喫煙者
  3. PONVの既往や乗り物酔いの既往
  4. 術後オピオイド使用
点数 発症リスク リスク分類
0点 15% 低リスク群
1点 20% 低リスク群
2点 40% 中リスク群
3点 60% 中リスク群
4点 80% 高リスク群

 

注意しなければならないのは、0点でもPONV発症リスクは15%であるということ。Apfelスコアの点数が低いからといってPONVが起こらないわけではなく、手術を受ける患者では常にPONVのリスクがあるということを念頭に置いておかなければなりません。

 

また、Apfelスコア以外にも、以下のような因子が報告されています。

 

その他の因子

  • 全身麻酔下における亜酸化窒素と揮発性吸入麻酔薬の使用
  • 特定の手術(胆嚢摘出術、腹腔鏡手術、婦人科手術)

 

Apfelスコアだけでにとらわれず、麻酔法や術式も考慮したリスクアセスメントが必要となります。

 

PONVの予防・治療

PONVは、予防が基本となります。

 

まずは発症リスクを下げるため、可能な限り以下のような誘発因子の排除を考慮します。

 

PONV誘発因子の排除

  • 区域麻酔の選択
  • プロポフォールの使用
  • 亜酸化窒素を避ける
  • 揮発性吸入麻酔薬を避ける
  • オピオイド使用量を最小限にする
  • 充分な輸液を行う

 

中リスク群以上の患者に対しては、誘発因子の排除とともに以下のように薬剤の予防投与を行います。

 

PONVの予防に用いる薬物

  • 5-Ht3拮抗薬
  • H1拮抗薬
  • トランキライザー
  • メトクロプラミド
  • スコポラミン
  • デキサメタゾン

アメリカではPONVに対する第一選択は5-Ht3拮抗薬であるオンダンセトロン®︎ですが、国内ではPONVに対する使用は認可されていません。

 

使用頻度の高い主な薬剤としては、ドロレプタン®︎、デキサート®︎、プリンペラン®︎などが挙げられます。

 

また、プロポフォールはそのものに制吐作用があるため、誘発因子の排除とともに予防薬としての役割も果たします。

 

予防策を講じたにも関わらず起こってしまったPONV、つまりPONVの治療に関しては、予防投与に用いなかった薬剤を使用することが基本です。

 

手術室看護師の役割

PONVの予防と治療は薬剤の投与が基本となるので、手術室看護師に介入の余地はないように思われがちです。

 

PONVに関して手術室看護師が果たすべき役割は、1人の医療者として、PONVのリスクに応じた適切な予防・治療が行われるよう、リスクの周知・共有を行うことです。

 

Apfelスコアのほとんどの因子はカルテから簡単に得られる情報ばかりですが、「乗り物酔いの既往」だけはカルテには記載されていないことが多いため、少なくとも麻酔導入が始まる前まで問診しておく必要があります。

 

そして、患者のPONVリスクをしっかりと周知し、適切なら予防と治療が行われるよう働きかけましょう。

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