体温管理

術中体温管理は「上げる」ではなく「下げない」が正解

術中体温管理に関して、手術室看護師が持っておくべき基本的な視点があります。

 

それは、

 

「いかに上げるか」ではなく「いかに下げないか」という視点。

 

この視点さえ持っておけば、多くの低体温は防ぐことが可能です。

 

術中体温管理とは正常温を保つこと

術中体温管理の目的は、術中を通して正常温を保つこと。

 

周術期における正常温とは、一般的に核心温の正常値である37.0±0.2℃を指します。

 

これまで体温管理に関する研究は世界中で行われてきましたが、その多くは手術終了時の体温と合併症発生率との関係性を調べたもの。

 

ポイントは、手術終了時の体温というところです。

 

手術終了時には正常温であったものの、術中に一度でも35℃台の低体温となった場合の生体への影響は、未だ明らかにはされていないんです。(心臓外科手術などで行われる意図的な低体温操作は別ですが)

 

 

とは言え、手術終了時の体温さえ正常であればいいかというと、そうでもありません。

 

なぜなら、麻酔下にある患者の体温は、一度下がれば簡単には上げられないからです。

 

温度を一定に保つということ

そもそも、温度を一定に保とうとするとき、何をしますか?

 

例えば、目の前に37℃のお湯があるとします。

 

このお湯をの温度を3時間一定に保ちなさいと言われたら、どうしますか?

 

多くの方が、保温したり加温したりして、37℃を一定に保とうとするはずです。

 

間違っても、37℃のお湯を2時間放置しておいて、残りの1時間で37℃に戻そうとは思いませんよね。

 

術中の体温管理も同じ。

 

同じであるにも関わらず、後者のような「下げてから上げる」という温度管理をしてしまう場合が圧倒的に多いのです。

 

麻酔中の体温は下がりやすい

ヒトは恒温動物です。そのため、非麻酔時であれば自律神経の働きによって核心温は常にほぼ一定に保たれます。

 

ところが、麻酔がかかるとともに、体温を一定に保つためのはたらきが大きく抑制されます。

 

まずは、行動性体温調節

 

「寒い」と感じたときに服を着たり、逆に「暑い」と感じたときに服を脱ぐといった意識的な行動は、麻酔によって作り出される不動状態によって起こらなくなります。

 

次に、自律性体温調節

 

体が震える、汗をかくといった自律神経に支配されている無意識の体温調節反応も、麻酔によって大きく抑制されます。

 

また、術中の患者は手術室内の低温環境にさらされ、体腔内の臓器も大気にさらされます。

 

体の外側も内側も、低温環境にさらされるわけです。

 

まとめると、手術中の患者は本来備わっている体温を一定に保つための機能を失い、さらに体全体が低温環境にさらされるということ。

 

手術を受ける患者さんは、体温が上がる要素はゼロであり、体温が下がる要素しかないのです。

 

下がった体温は上がりにくい

術中の体温はとにかく下がりやすい。

 

厄介なことに、一度下がってしまた体温を上げるには、かなりの熱量を加えなければなりません。

 

一般に、視床下部、それ以外の脳部位、脊髄、腹部と胸部の深部組織、皮膚の5郡が、それぞれ約20%ずつ、中枢温の変動に影響を与えるとされる。したがって、たとえば皮膚温が1℃変化すると、中枢温は約0.2℃変わることになる。逆にいえば、もし視床下部の温度が変化したとしても、それは中枢温には1/5しか影響を与えない、ということになる。

周術期管理チームテキスト 第3版/日本麻酔科学会/日本麻酔科学会 P.632より引用

 

術中に0.5℃の体温低下をきたしたとすると、元の体温まで複温するには、5倍である2.5℃もの熱量を加えなければなりません。

 

下がった体温を上げることがいかに非効率的であるかが分かると思います。

 

「下げない」ことこそ効果的な体温管理

手術中の患者は、体温を一定に保つ機能が大きく抑制されている状態のまま、低温環境にさらされます。

 

さらに、一度下がった体温を上げるには、より大きな熱量を加えなければなりません。

 

下がった体温を上げるより体温を下げないよう管理する方が、よっぽど楽なんです。

 

そもそも、ヒトは恒温動物。

 

例え麻酔下であっても、体温は可能な限り大きな変動をさせず一定に保つことが生理的であることは間違いありません。

 

麻酔で体温調節機構が働かないのなら、手術室看護師はその体温調機構を補完してやればいいのです。

 

「体温を下げない」という視点を持ってください。そうすれば、ほとんどの低体温は予防することができます。

 

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